もてなしの蔵|この土地に育った木が、人をもてなす場所になる
更新日:10月12日
―「もてなしの蔵」の再生

この土地で育ったケヤキを使った一階の床。古い柱や梁と、人を迎えるテーブル。
「もてなしの蔵」のお施主さんから、嬉しい話を伺いました。
工事も終わりに近づき、床が張り上がったころ。
職人さんが帰ったあと、ケヤキの床に寝転んでみたそうです。
ほんの少しのつもりが、気持ちよくて数時間うたた寝してしまった。
そんな話を聞くと、なんとも嬉しくなります。
この床に使ったケヤキは、もともとこの土地に育っていた木でした。
道路の拡幅に伴い、やむなく伐採されたもの。
お施主さんは、いつか何かに使いたいと保管していました。

道路拡幅に伴い伐採され、保管されていたケヤキ。
その木が、同じ土地に建つ蔵の床になった。
その上で、お施主さんが気持ちよく眠ってしまった。
人と木と建物が、こんなふうにつながりました。
東京都三鷹市にある「もてなしの蔵」。
大正時代に建てられ、後にこの土地へ移された農業蔵です。
お施主さんは、何かに活用したいと保存していました。
再生のきっかけは、雹の被害でした。
東側の土壁が崩れ、壁の下地が露出してしまったのです。
お施主さんは、有機農法で野菜を育てる農園主。
農園を訪れる方に、採れたての野菜を振る舞います。
夏にはバーベキュー。
冬には芋煮会。
人をもてなすことが大好きな方でした。
蔵を改修するにあたり、そのもてなしの場を用意できないかと思いました。
農園を訪れた方が、ふっと立ち寄ってお茶を飲む。
採れたての野菜で料理をする。
農業を学ぶ。
作品を展示する。
お施主さんが普段からしていることを、この蔵で受け止める。
「もてなしの蔵」という名前には、その思いがあります。
保管されていたケヤキは、木場の製材所へ運びました。
床に使える部分を選び、長さを三種類に揃える。
一階の床を張るだけの量を確保できました。
板には、それぞれ違う表情があります。

床材として製材したケヤキ。板ごとに異なる木目が現れました。
新しく張るケヤキの床には、少し色を付けました。
古い柱や梁の風合いに馴染ませるためです。
もとの一階の床材も、使える部分を選びました。
ひどい虫食いは除き、状態のよい部分を二階へ。
一枚一枚、水洗いして再利用しました。
できるだけ捨てずに、使えるものは大事に使う。
それが、この建物に対する正しい態度だと思います。
人が使いやすくなるよう、変えたところもあります。
二階は梁の下が低く、頭をぶつけやすい。
そこで床を下げました。
急勾配の、はしごのような階段も移しました。
登りやすい階段を、新しく設けています。
傷んだ土壁は、左官職人の手で再生しました。
天候と相談しながら、ひとつひとつ手を重ねる仕事です。
材の状態を見る。
身体の動きを考える。
職人の技に支えていただく。
そうして、これから使っていく場所を整えました。
完成後、この蔵では食事会やセミナーが開かれました。
ワインの試飲会や、ギャラリーとしての利用も。
後に、待ちが出るほど多くの方に使われている様子を拝見しました。
喜ばれている姿に、建築家冥利に尽きる思いでした。
建物に新しい役割が生まれた。
お施主さんのもてなしが、訪れる人へ届いている。
そのことが嬉しいのです。

再生した「もてなしの蔵」。農園を訪れる人たちを迎える場所に。
命を観て、結び、創る。
いま、この仕事を振り返ると、その言葉が重なります。
そこにある木。
長く使われてきた建物。
お施主さんが大切にしていること。
職人の手仕事。
これから訪れる人たち。
一つひとつをよく見て、どう結び合わせるかを考える。
その先に、豊かな場が生まれると思っています。
古い建物を使い続けること。
新しい家を建てること。
仕事場をつくること。
それぞれの場所で、まず大切にしたいものを伺いたい。
建物や土地のこれからを考えている方。
暮らしや仕事の場をつくりたい方。
まだ考えがまとまっていなくても、お聞かせください。
何を大切にし、どんな場をつくりたいのか。
そこから、一緒に考えたいと思います。



